山の人びと ~移住者~
千葉県→富士町に移住
佐賀市富士町で「恵良(えら)農園」をご夫婦で営む恵良裕一郎さんと五月さん。裕一郎さんは福岡県、五月さんは神奈川県のご出身です。移住後に独学で農業を学び、農薬や化学肥料に頼らない農法を実践。恵良さんたちが作りだすおいしい野菜は各地にファンを増やしています。
移住を考えたきっかけを教えてください
会社員の頃から「いつか農業をやりたい」と思っていました。2011年に東日本大震災が起きて、「やりたい時にしなきゃ」という気持ちに変わり、農業を始めることを決意。「自分で食べるものは自分で作りたい」と思いました。仕事の引継ぎもあり、すぐに会社を辞められなかったのですが、翌年2012年3月に移住。当時、私は39歳、子どもは小学2年生でした。
家を決めた理由を教えてください
知り合いの方に三瀬村のほうで家を探してもらっていましたが、なかなか見つからず、三瀬支所を訪れた際に「空き家バンク制度」を知りました。そして、富士町なら物件があるとのことだったので、現在の住まいを紹介してもらいました。今まで見た物件がとても古かったので、ココなら住めそうと思いました(笑)。ちょうど3年ほど前にトイレを水洗に改修されていた点も良かったです。ただ屋根の修繕は必要だったので、空き家バンク制度の改修費助成の申請を行いました。今でもお風呂は母屋と別の場所にあるので、雨が降る日は傘をさしてお風呂場に向かっています(笑)。賃貸で3か月間住んだ後、家を購入しました。
幅が車一台分ほどの小道を登ると恵良さんのご自宅に到着。
緑豊かなお庭ではニワトリたちがのびのびと暮らしています。
農業はどのように始められたのですか?
農業は全くの未経験でした。暮らしながら学んだという感じです(笑)。移住後に、知り合った地元の方たちに農地を貸してもらい、農業を始めるのに必要な面積五反(たん)を確保。農業研修などは受けずに独学で農業を始めました。最初は栽培しやすいピーマンからスタート。農協の方や道行く地元の人たちからもたくさんアドバイスをいただきました。無農薬にしたのは、農薬を体に摂り入れることに私が抵抗があったからです。そしてたどり着いたのが「農薬に頼らない農業」でした。
農薬や化学肥料の代わりに野菜たちに与えるのは、ミネラルたっぷりの塩と糖蜜の発酵液。農薬のように即効性はありませんが、野菜の生育は格段に良くなり野菜本来の甘みを引き出します。私たちの野菜を「おいしい」と言ってもらえるのは、この農法のおかげかなと思います。農業は気候に左右されますし、無農薬ならではの苦労もたくさんしました。イノシシに食べられることもありますよ。
現在、恵良農園さんではピーマン、ナス、きゅうり、ミニトマトなどの夏野菜をメインに、年間30種ほどの野菜を栽培。スーパーや飲食店に卸すだけでなく、福岡や関東方面のお客さんに向けて季節野菜の定期宅配も行っています。
暮らしてみていかがですか?
移住する前から山が好きで自然を求めて旅行に出かけていましたが、今は山や温泉がすぐそばにあり観光地に住んでいるような感覚です。里山ですが佐賀市中心部や、福岡にも近い立地も気に入っています。
私たちの集落は区役や祭りなど自治会の行事が比較的多いのですが、そのおかげで自然と地域の輪にも入れました。「三夜待(さんやまち)」という当番の家を順番に回って飲食をする会があるのですが、それにも入れてもらって。集落の人たちとじっくりと話すと、思いやりに溢れていてすごく地域のことを考えているのだなと感じます。実際、大雨で土砂崩れが起きた時は、行政よりも先に重機を持っている人が動いて、住民同士で助け合いました。移住した頃に比べると高齢化が進み集落の活気が減ったのは少し寂しいですね。
通勤、学校、病院、買い物などはどうされていますか?
畑までは車で移動しています。子どもは中学校までは富士町内、高校はバスと自転車を利用し佐賀市中心部の学校に通学していました。病院はあまり行くことはありませんが、富士町や三瀬村の病院に行きます。買い物は、野菜以外の生鮮品は一か月に一回、佐賀市大和町のスーパーでまとめ買いしたり、野菜を卸しているお店で購入したりします。ネットの環境も整っているので利用しますが、本の購入が多いです。
これからの夢を教えてください。
裕一郎さん:今年で移住して13年目。52歳になり、田舎を紹介できる年齢になったのかなと思います。現在、農業を学びたいという人たちを集めて「農業塾」もしているのですが、「移住」や「農のある暮らし」を考えるきっかけの場になればと思います。
五月さん:宮沢賢治さんのように「農業と文学」を両立したいです。大学では文学部、仕事では翻訳に携わっていたこともあるほど本が大好き。子育てがひと段落した今、本の出版に向けて準備中です。まずは電子書籍で自分の本を出せたらと思います。
取材時:2024年5月
恵良農園さんの詳しい情報は↓ご確認ください!
借金はせずにやれることから始めたほうがいいと思います。山のひとたちは「個」ではなく「周りの人たち」のために動く、「利他の精神」に溢れた人たちです。そんな風にまちとは違う人の温かさを感じられるのが田舎暮らしのメリットだと思います。